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ケーススタディ 一つのゴールを見据えたチームワークで「未来のあるべき姿」を実現する全社システム基盤

大陽日酸株式会社様

2020年6月、大陽日酸株式会社(以下、大陽日酸)の全社システム基盤刷新プロジェクトが発足した。クライアントPC環境からオンプレミスとクラウドを併用したハイブリッド基盤の構築まで多岐にわたる範囲を対象とし、システム移行、その後の運用までに及ぶ大規模プロジェクトだ。従業員がストレスなく使えるITインフラを目指すプロジェクトが、2年近くの時間を経て、個別最適化に留まらず、経営ニーズを踏まえたビジネスのあるべき姿を実現する ITインフラ基盤の刷新を成功させた。 ここでは今後のITインフラ像に示唆を与える事例としてプロジェクト成功の鍵を探る。

Before/After

課題/目的

  • 異なるベンダーによる部分最適な仕組みのため、対応時のコストが増大
  • システム基盤再構築のグランドデザインをどのように実現していくかが課題

日商エレクトロニクスの支援により、IT基盤を刷新

効果

  • 日商エレとの共同チームの組成により複合システムの同時更新を成功
  • データをクラウドストレージに配置し、懸念されるセキュリティには万全の対策を組むことに成功
  • 膨大なコストを取られていた社内パスワード管理の効率化
企業名:
大陽日酸株式会社様
所在地:
東京都品川区小山1-3-26
設立:
1910年10月30日
URL:
https://www.tn-sanso.co.jp/jp/ ターゲットブランクアイコン
事業内容:
100年以上の歴史を持つ日本最大手の産業ガスメーカー。多種多様な形態で高品質なガスを安定供給することにより、国内外を問わず社会に欠かせない多くの産業を支える。2020年 10 月には、日本酸素ホールディングス株式会社により新しいグループ経営体制へ移行し、国内市場に特化した戦略会社となる。「The Gas Professionals」として、ガス事業を起点に連続的なイノベーションの実現と、ガス事業の枠を超えたソリューションに取り組んでいる。

課題

大陽日酸では、全社システム基盤の構築時に抱く理想と運用時における現実にはギャップ(課題)があり、システムの所有から利用へのシフトを目指し、刷新の方針を定めていた。

この課題解消に対して日商エレクトロニクス株式会社(以下、日商エレ)は精鋭メンバーを集結させ、大陽日酸とのチームワークにより以下を実現した。

  • 個別最適化ではなく、全社システム基盤のあるべき姿を大陽日酸、日商エレの両社が共に描き、形にした。その実現のため、知識、経験豊かな日商エレのシニアスペシャリストが主導し IT基盤全体のアーキテクチャーをデザインした。
  • 多様な技術要素を組み合わせて、単一な製品やサービスでは不可能であった新たな価値を生み出した。
  • 遅延リスクを回避するため、両社のタスク進捗を併せて管理するプロジェクトマネージメントを実施した。
  • 大陽日酸の要望に合わせたテーラリングを行い、最適な保守・運用の体制を構築した。

選定理由、導入の流れ

大陽日酸の「未来のあるべき姿」を描くようになるまで

大陽日酸と日商エレの出会いは、日商エレ主催の VDI(Virtual Desktop Infrastructure)セミナーに大陽日酸が参加したことが始まりだった。VDIソリューションの導入検討をきっかけに、対話を重ねるにつれ大陽日酸の本質的なニーズが掘り起こされていくことになる。
当時の大陽日酸のインフラは、クライアントPC、ネットワーク、データセンターそれぞれのシステムが、異なるベンダーにより構成されており、異なるタイミングにおいて更新が実施されていた。それゆえに不具合が起こるとベンダーを跨いだ対応が必要となり、膨大な工数が掛かっていた。つまり、システムは個別最適化されているが、更新時期が異なるゆえに発生する要件のズレも相まって、全体のあるべき姿が描けておらず、ベンダー1社への集約とワンストップ対応の実現が明らかな課題であった。さらに深堀りを進める中で、システムの全体最適によって新しい価値を創出するという本質的な経営ニーズが明らかになってきた。
そこで両社は「未来のあるべき姿」を共に考え、課題を整理、仮説検証の繰り返しを進めていった。こうした対話の積み重ねで「形」にしたのが全社システム基盤再構築のグランドデザインだ。

大陽日酸株式会社 経営企画・ICTユニットICTマネジメント統括部 プラットフォーム部 部長 渡辺 俊一 氏

未来のありたい姿を描くグランドデザイン作成過程

「未来のあるべき姿」を実現するために、肝心となるものがこのシステム基盤のグランドデザインだ。全社システム基盤と一口で言っても、ハイブリッドやフルクラウドなど構成要素が複雑であるため、最適なグランドデザインが描けていないと、各システムの整合が取れずにその後の改善にも再度全体の見直しが必要になってしまう。グランドデザインには、デザイン力や仮説の構想と検証力が必要とされ、とりわけこのような大規模なシステム改善には、従業員の要望や目前の課題のみに留まらず、一歩先の視点で捉えることが重要だ。両社のプロジェクトメンバーは議論を重ね、共に考えて解決していくスタイルを貫き、ビジネスの価値向上を実現するパートナーとして関係性を築いていった。

大陽日酸株式会社 経営企画・ICTユニットICTマネジメント統括部 プラットフォーム部 ICTインフラ企画課課長 富岡 謙蔵 氏

複合システムを同時にリプレース

2022年1月、予定通り複合システムの同時更新を成功させた。その範囲はネットワーク、サーバー基盤、PC環境まで多岐にわたる大掛かりな作業であったが、両社の壁を超えるチームワークにより、効果的な解決策の実行を通して問題点は難題であろうとも一つ一つ着実に解消されていった。
そこで両社は「未来のあるべき姿」を共に考え、課題を整理、仮説検証の繰り返しを進めていった。こうした対話の積み重ねで「形」にしたのが全社システム基盤再構築のグランドデザインだ。

大陽日酸株式会社 経営企画・ICTユニット ICTマネジメント統括部 プラットフォーム部 ICTインフラ企画課 小池 美徳 氏

動作遅延の解消

大陽日酸では、2012年よりVDIを採用していたが、利用者の増加に伴いアクセスが集中して動作遅延が起こり、ピーク時には業務に支障をきたす日々が続いていた。これに対してストレージやサーバーの増強をピーク時に合わせて実施すると、莫大なコストがかかってしまう。そこで考えたのが、ローカル環境のPCに通常業務負荷をシフトすることであった。PCで処理した方が効率的な業務アプリはPCにおいて実行し、データをクラウドストレージに配置することで利便性とセキュリティを両立させている。

そこに懸念される紛失時の情報漏えいに対しては、遠隔でPCを初期化する「リモートワイプ」機能を搭載することで万全の体制としている。また動作遅延の解消を狙い、ネットワークを集中型から分散型に変更した。特にクラウドサービス向けのトラフィックについては、データセンターを経由せずに直接アクセスする「ローカルブレイクアウト」のネットワーク構成とし、データセンターへのトラフィック集中を防いだ。これらの対策により、現在ではピーク時においても動作遅延が発生しない快適な業務環境の提供を実現している。

株式会社ITマネジメントパートナーズ 大陽日酸グループ事業部 基盤運用サービス部 部長 長谷川 淳一 氏

安全性を担保するパスワード管理

当時、大陽日酸では管理者、従業員両者がパスワード管理に課題を抱えていた。管理者側においては従業員から PC に関する問い合わせが多く、パスワード管理を含めて業務負荷を少しでも減らしたい状況であった。一方、従業員側においては各システムに都度パスワードを入力する手間を要していた。毎朝のアクセス集中による動作遅延の中、一連のログイン作業を終え業務を開始するに至るまで数十分も要していたほどだ。
この問題を解消させるためには、パスワード管理のコストや、従業員の利便性を踏まえるとパスワードレス認証が最善策であった。「パスワードが思い出せない」事態を解消し、最高のユーザーエクスペリエンスを実現できる。また、パスワード漏えいや盗用のリスクがなくなることはセキュリティ面でもメリットがある。今までにそのような仕組みに対応したシステムは存在しなかったが、日商エレは、知識・経験を総動員して、最も条件の合う製品の組み合わせを考え、メーカーも驚かせるような認証基盤を作り上げた。
「VDI、認証など多種多様な製品に深い知見がある当社だからこそ最適な形で実現することができた」と当時の担当エンジニアは振り返る。

株式会社ITマネジメントパートナーズ 大陽日酸グループ事業部 基盤運用サービス部 基盤管理課 富山 厚史 氏

安全・確実なシステム移行

プロジェクト成功のキーポイントの一つに、システム移行があった。新環境への移行作業は半年以上にも及び、その範囲は PC 環境・認証関連・サーバー・ネットワークと多岐に渡った。移行作業中においても従業員は業務を継続する必要があり、作業による影響を最小限に抑えることが必須であった。特にPC 環境・認証関連の移行は業務へ影響しやすいことから、移行計画策定から検証まで入念に進めていった。その結果、移行時においても従業員からの問い合わせは想定より少なく、スムーズな移行が実現された。サーバーの移行は、最適な移行プランの検討と検証・100 に及ぶステークホルダーとの調整・数百台規模のサーバーの移行検証・300を超えるネットワーク拠点切替との連携など、大陽日酸と日商エレが昼夜問わず「One Team」で対応し、業務影響を最小限に抑えつつも、難易度の高い移行作業をスケジュール通りに完遂した。

BCP(事業継続計画)対策

BCP対策として災害時を想定した新データセンターを構築した。常時利用するシステムは予め費用を把握できるオンプレミスで構築し、発生の見通しが難しい災害時用の VDI は従量課金のクラウドで構築した。日商エレのオンプレミス、クラウドの知見を生かして双方良いとこ取りの仕組みを実現した。

こうして日商エレのシニアエンジニア達が、実績に基づく豊富な知見を駆使して、この困難とも言える状況を乗り越えていった。中でも担当者が曖昧なタスクを積極的に引き受け、柔軟に対応したプロジェクトマネージャーやプロジェクトリーダーの存在も大きい。本プロジェクトでは、定期的に「One Team」をキーワードに、チームワークの重要性についてメンバーに意識付けを行っていた。良いことだけでなくネガティブな情報も早期に共有、問題にぶつかった際はどうすればいいか未来思考で一緒に考えるチーム作りができていたのだ。大陽日酸・日商エレや協力会社、関係者全員が一つのゴールを見据えたチームワークでプロジェクトは進められた。

日商エレクトロニクス エンタープライズ事業本部 マイクロソフト事業部 インテグレーション課 伊達 渉

ネットワーク構成図

効果

実現後の運用デザイン

システムの運用には、立場の異なるメンバーが多く関わるため、最初の設計が肝心だ。いざ運用の段階で現場の実態に合わないような事態は避けたい。そのため、要件定義のフェーズから日商エレの運用・保守サービス部隊である NCPF(Nissho Cross Platform)が携わり、大陽日酸が安心して運用できるシステム設計を前提とし、運用におけるリスクは早めに解消されていった。また、各システムのベンダーが異なり、システム全体でみると運用が最適化されていなかった問題も、今回のシステム刷新で解決された。
日商エレは、構築後の運用・保守までフルマネージメントで対応する体制を構築している。

大事にしていた姿勢、スタンス

大陽日酸の全社システム基盤刷新プロジェクトを通して日商エレが大切にしてきたことは、顧客志向とチーム志向であり、チームメンバーへの意識付けは、大規模プロジェクトへのチャレンジの成功に大きく寄与した。

顧客志向

日商エレは、お客様の要望や目前の課題を解決することに留まらず、大陽日酸の立場、その一歩先の視点に立って取り組んでいた。本プロジェクトにおいては、大陽日酸の要望に対してどうすれば実現可能か、未来を描く視点を重視し、実現が難しい場合には違う方法を提示するように心掛けていた。この姿勢だからこそ、大陽日酸とコミュニケーションを重ね、試行錯誤して実現に導くことができたのである。

日商エレクトロニクス プラットフォーム本部 第一NCPF部 一課課長 小板橋 弘志

チーム志向

「One Team」として大陽日酸や協力会社含めプロジェクト関係者全員がプロジェクトのビジョン・目標を共有し、同じゴールに向かう健全なコミュニケーションが心掛けられていた。本プロジェクトでは、複数のシステムを同時にリプレースするため、一つタスクが遅れると、プロジェクトが連鎖的に遅延する恐れがあった。そこで日商エレは、大陽日酸のタスクも含め、プロジェクトマネージメントを試みた。通常の場合、自社のタスクのみスケジュールやステータス管理するものであるが、両社のプロジ ェクトマネージメントと密なコミュニケーションによって遅延することなく完遂することができたのである。

ITマネジメントパートナーズ 大陽日酸グループ事業部 基盤運用サービス部 基盤管理課課長 川瀬 亮氏

今後の展開

今後のチャレンジ

共にビジネス価値の向上を目指す

大陽日酸と日商エレは今後さらに協業を深め、共にビジネス価値の向上を探っていく意向である。具体的には、以下のポイントで切り込んでいく狙いだ。

  • IoT、データドリブンの分野など、DX 推進における協業。
  • NCPFの活用による、日商エレ側の運用・保守サービスのさらなる改善。

より多くのお客様へ付加価値を提供するために、日商エレは、本プロジェクトで培った経験を生かし、ハイブリッドクラウドの導入を検討されている他のお客様にも積極的に技術支援していく考えだ。お客様の潜在的な課題を見い出して、お客様と共に新しい価値を創造する取り組みを増やしていく。また、今後「未来のあるべき姿」を実現するグランドデザインを描ける人材を育成するため、統合検証環境を構築し、実際に触って学べる環境を作る予定だ。さらに、お客様の本質的なニーズに応える上流コンサルティング活動には、より広範囲にシステム全体を俯瞰する姿勢が求められる。その分野を語れるエンジニアを育成していく予定だ。

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