Payment Data Analysis Interview
強さの秘密 日商エレクトロニクス Vol.10


キャッシュレス化やEC市場の拡大とともにクレジットカードの不正利用被害は増加を続け、さらに近年はその手口が多様化・巧妙化しており、不正取引の検知や対策はますます困難な状況となっている。この社会的な課題を解決すべく、日商エレクトロニクスは新たなブランドとして「Tranfis」(トランフィス)を立ち上げ、クレジットカードの不正利用を防止するサービスをクラウドから提供開始した。
日商エレクトロニクス「らしくない」新規事業
EC市場が拡大し、リアルな店舗でもキャシュレス化が進展している。これに伴い増大しているのが、クレジットカード取引における不正被害だ。一般社団法人日本クレジット協会が2020年3月に発表した「クレジットカード不正利用被害の発生状況」によると、2014年から2019年にかけて不正利用被害額は約2.4倍になっている。この被害はすべてECサイト事業者側の負担となってしまうため、不正の未然防止は喫緊の課題となっている。
こうした社会的なニーズの高まりを受け、日商エレクトロニクスが2020年8月より提供を開始したのが、ECサイト事業者向けにクレジットカード不正利用を防止するサービスブランド「Tranfis」(トランフィス)である。


日商エレクトロニクスといえば、シリコンバレーを中心とした海外製品の発掘や代理店販売、あるいはシステム構築が主なイメージかもしれない。中長期の成長戦略を模索する中で、そうした従来とは異なるビジネスモデルの新規事業を確立するという経営方針が出た。
「新規事業は、データ分析やAIなど自社の知財であるソフトウエアを活用するサービス事業が中心となります。その一つとしてクレジットカードの不正利用防止の市場性や将来性に着目したのです」 DX事業本部 第一事業部 部長の池上啓司は、新規事業としてTranfisを立ち上げた経緯をこう語る。
2018年から準備を開始し、2019年に新設されたDX事業本部にその事業母体を置くことになった。
もっとも、いくら市場性や将来性はあったとしても、それだけで新規事業を軌道に乗せられるほど甘くはない。池上自身も「知財、ノウハウ(業界知識)、関係性(見込み顧客やパートナー)の3つの要素がそろっていないと新規事業は成功しません」と語る。
クレジットカードの不正利用防止に関していえば、日商エレクトロニクスに欠けていたのは知財やノウハウの部分だ。日々発生するクレジットカード利用の膨大なトランザクションのどれが不正なのかを見極めるのは容易ではなく、専門スキルをもったデータアナリストを独自に育成するには長い年月を要する。


「運もあるのかもしれませんが、日商エレクトロニクスがこれまで培ってきた人脈を通じて、クレジットカードの不正利用検知について先駆的な技術開発やコンサルティングを行ってきた方々と出会い、チームとして合流してもらうことができました」と池上は振り返る。
Tranfisの事業化に際して新たに加わったのが、DX事業本部 第一事業部の日浦武仁、上野貴寿をはじめとする5人のメンバーである。
「私たちはこのビジネスに新規参入することの難しさも熟知していますが、一方で注目したのが、総合商社双日グループの一員である日商エレクトロニクスならではの幅広い層の取引先です。その先にいるお客様とつながることさえできれば、並み居る競合他社に打ち勝って市場をリードしていけるという確信がありました」(上野)
不正に負けない常に進化するサービス
DX事業本部 第一事業部は、まず2018年より航空会社のチケット予約サイトにデータアナリストによるデータ分析・コンサルティングを提供し、クレジットカード不正利用による被害を99%削減することに成功した。このしくみをベースに日商エレクトロニクスベトナムと共同開発し、クラウドサービスとしてリリースしたのがTranfisである。日商エレクトロニクスベトナムは、ベトナムでオフショア開発と現地通信事業者やエンタープライズ向けのIT基盤構築、および現地発の新規ビジネスに取り組む日商エレクトロニクスのグループ会社だ。


TranfisはAIを活用して自動化した分析機能により少ない工数でも不正を検知することが可能で、アナリストのいない小規模なEC事業者にも低価格でサービスを提供できるようになった。
ただし、近年のクレジットカードの不正利用は手口を多様化・巧妙化している。加えて、昨今はクレジットカードの不正利用が組織レベルで行われており、チェックをくぐり抜けるトランザクションが見つければ同じ穴を短期間で集中的に突いてくるなどイタチごっこが続いている。そのため、不正検知のルールやAIの学習モデルを継続的にアップデートしなければならない。

「単純にルールを厳しくすればよいわけでもありません。正しいクレジットカード利用まで不正の可能性があると判断して拒否してしまうと、ECサイトからの離脱が頻発し、お客様の売り上げが損なわれるという本末転倒の事態を招いてしまいます。そのため、全トラフィックをチェックした上で、特に不審な利用についてのみ二要素認証をかけるなど、常にバランスを考慮した運用を行っています」(日浦)
Tranfisでは、専門知識をもつデータアナリストが定期的なオンラインミーティングを通じて事業者1社ごとの状況を把握し、統計学に基づいた分析・コンサルティングを行うことで、高精度な不正検知を維持している。
「まさにこの点、データアナリストの支援力こそが、運用をお客様にお任せしている他社サービスに対するTranfisの圧倒的な優位性です」と上野は話す。
Tranfisブランドでさまざまなサービスを拡充予定
2020年9月に日商エレクトロニクスはソニーペイメントサービスと提携。Tranfisとソニーペイメントサービスが契約するVISAグループのサイバーソース社の不正決済検知ソリューション「Decision Manager」を利用した不正検知サービスの共同展開を開始している。
こうした協業ビジネスによる販路を拡大する一方で、Tranfisの追加開発やビジネス拡大も本腰を入れて加速していく。


営業を担当するDX事業本部 第一事業部 一課の宮田貴弘は、次のように話す。「狙われやすい高額商品や限定商品を取り扱っているECサイトはもとより、ショッピングモールの運営会社、航空会社、ゲームコンテンツの配信会社、格安SIMなどのサービスを提供している通信事業者(MVNO)など、すでに多くのお客様から引き合いをいただき商談が始まっています」 2020年度中に100万トランザクションの契約を獲得が目標だ。
さらにその先に見据えているのが、提供するサービスそのものの拡充だ。TranfisはECサイト事業者に向けて提供する多様なクラウドサービスを総称するブランドであり、今回リリースしたクレジットカードの不正利用検知はあくまでもその第1弾である。

ECサイトにおける決済データをサービスの中心に位置づけたとき、その周辺にはアップセルやクロスセルにつなげていくためのマーケティング、カスタマーエクスペリエンスの向上によるリピーターの獲得、クレジットカードの不正利用防止だけにとどまらない広範なセキュリティ対策など、お客様には多くの課題がある。
「そうしたニーズにお応えするオプションや新規サービスをTranfisのメニューとして拡充し、順次リリースしていきたいと考えています」と池上はこの先の展開を見据える。
長年にわたるインフラビジネスで培ってきた業務知識と豊富なアイデア、データアナリストの高度な分析力やコンサルティング力を融合することで、Tranfisは今後も絶え間ない進化を続けていく。